Hender SchemeRYO KASHIWAZAKI INTERVIEW

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Hender Scheme
RYO KASHIWAZAKI INTERVIEW

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ある人はシューズこそが〈Hender Scheme〉の真骨頂だと言い、またある人はモードなデザインに魅かれると言う。そうして洒落者たちの視線を集め、確実にその存在感を強めている一方で、このブランドの全貌は多くの人にとって今も未知のままだ。時にミニマルで力強く、時にユーモアとアイロニーを漂わせるその物作りについて、〈Hender Scheme〉デザイナーの柏崎亮は静かに語る。
例えば男に限って言えば、足元の選択肢はそう多くはない。真夏のサンダルを除くと、多くの人がスニーカーか革靴かブーツのどれかを選んでいることだろう。〈Hender Scheme〉の名前を一躍世に知らしめたのは、そのどれにもカテゴライズしがたいシューズの数々だ。無垢なヌメ革を使い、オパンケやマッケイといった製法を採用した作りは革靴のそれだが、そのルックスはと言えば、多くの人々にとって見覚えがあるであろうスニーカーそのものだった。オマージュラインと呼ばれるこの象徴的コレクションに始まり、レザーを使ったうちわや風車、今季であればヌメ革のライダースなど、〈Hender Scheme〉には他ではまずお目にかかれないような遊び心溢れるアイテムが揃っている。柏崎亮がこのブランドをスタートしたのは2010年のこと。当時まだ20代もそこそこだった若者は何を見て育ち、どのようにしてそんなクリエイションへと辿り着いたのか。

「僕は中2くらいで町田に越してきて、以降はそこで育ちました。小学校からサッカーをやっていたので、スパイクとかユニフォームから洋服に興味を持つようになって。おばあちゃんがスーツの仕立て屋で母親は伊勢丹で働いてたりしたこともあって、小さい頃から『洋服は自分の好きなものを買いなさい』って言われていたのを覚えています。そんなに頻繁ではないけど、例えば冬物を買うとしたら5000円とか1万円をもらって自分で選んで買うっていうのがいつものパターンでした。町田は古着屋が多い街だったので、引っ越してからは徐々に古着を買うようになって。年齢とともに少しずつ興味が移っていきました」。

 そうして古着に傾倒した10代だったが、よくあるマニアックなウンチクや知識には惹かれなかったという。

「古着は年代とかには全然興味がなくて、それは今でも同じですね。値段も高くなっちゃうから、できればヴィンテージって言われるものじゃない方がいいくらい。"どこどこ製"とかっていうことにも、未だに興味が湧かないんです。それは自分たちが作るものにも言えることで、背景だったりストーリーも必要とされれば説明するけど、その前にまずは物を見て欲しいと思っています」。

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3つのサイズで展開されるヌメ革製のオーバルボックス。シューズでアッパーとソールを縫い合わせる際に用いる出し縫いを担当する職人が手がけていて、分厚い革でも側面と底が垂直になった、美しいフォルムが目を引く。
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羽が一枚革で成形された風車と、縁が波打たないように3層構造で作られたうちわ。手仕事の温もりが漂う、粋な意匠。

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トゥや履き口のパッドにボリュームを持たせた6インチハイトのブーツ。アッパーにはゴートとカウのヌメ革を使用している。
〈RIGHT〉
立体的でスポーティなフォルムをヌメ革で表現した1足。ピッグレザーのライニングが心地よい。



 以降もファッションには親しみ続け、大学生の時、偶然求人が出ていた靴工房で働き始めると、そこでの仕事を通して彼は靴作りを学んでいくことになる。現在では雑貨や小物なども展開する〈Hender Scheme〉において、今もシューズが中心となっているのはそんな来歴があるからだ。しかし、設立当初は、決して順風満帆とは言い難い状況だったと柏崎は話す。

「一番大変だったのは職人さんたちとのやりとりでした。作り手さんの感覚っていうのは正直なかなか難しい部分もあって、彼らは物を作るっていうことに注力してるから、そのビジュアルとかバランスっていうところがまで感性がリンクしてる人はいないんです。それに、靴の職人さんはきれいに仕上げることが美徳とされてるんですけど、僕らとしてはきれいになるのが必ずしも100点ではないから。でも、もともとすぐに話は通じないだろうなって思ってたし、当時はいろいろ怒鳴られたりもしましたね」。

 柏崎はそんな風に昔を振り返る。現在はシューズや革製品の生産背景がより整っている浅草に拠点を置いている〈Hender Scheme〉だが、伝統のある革靴作りだけに、やはりその現場には閉鎖的な考え方の職人も多かったようだ。

「紳士靴って、いかに手間を掛けて革を光らせるか、みたいな価値観があるんですよ。"この素材からは一足分しか採れません!" とか"これを作るのに一ヶ月もかけたんですよ!"みたいな。それに、そういう慣習を崩すのは悪だ、っていうような見方もある。ただ、僕らがやりたいのはそこじゃないから、最初はそのすり合わせがすごく大変でした。それでもだんだん状況も変わってきて、凝り固まったやり方じゃ立ち行かなくなってくるっていうのにみんな気づいてきて、僕らもちゃんと仕事になるような発注を出せるようになってからは少しずつ変わっていきました。今ではすごくスムーズになって、お互いをリスペクトもできていると思います」。

 長年の付き合いで培った信頼と彼のこだわりは、昔気質な職人たちの意識にも影響を与えた。自由に意見交換をできるようになった今の関係性は柏崎が目指したものだった。

「僕はその人たちがいないと物作りができないし、逆にその人たちも僕らがいないと仕事がなくなっちゃうっていう五分五分でフラットな関係ができてると、お互いに言いたいことは言えるので。だいたい新しいことをやろうとすると『できない』って言われるんですけど、自分で靴作りをやったことがあると、製法とか縫い方とか、こうやればできるんじゃない? っていう提案ができる。だから説得できるんです。僕が靴作りをまったく知らない、絵を描くだけのデザイナーだったらまず話を聞いてもらえないでしょうね」。

積層によって表現されたソールのカラーブロックが洒脱。今でこそポピュラーになったEVAの間にベンズレザーを挟み込むというアプローチも〈Hender Scheme〉はいち早く行なっていた。



 こだわりを貫いたことでまず職人が、そして商品を手に取る人々が、徐々に〈Hender Scheme〉を支持するようになった。それは同業のデザイナーたちも同様だ。2016年春夏から4シーズン続いている〈sacai〉とのコラボレーションは、モードにも彼らのクリエイションが認められた何よりの証だ。

「〈sacai〉の場合はショーが一番重要な発表の場所で、普段僕らがやっている道具やプロダクトとしてのアプローチとはまた別なこともあって面白かったです。まず先方のお話を聞いて、僕が"こういうのでどうですか?"ってアイデアを出して、っていう流れでできたのが最初で、以降もフラットな関係で互いにアイデアを出しながら制作しています」。

 図らずもこのコラボで〈Hender Scheme〉の認知度はさらに上がり、柏崎の元へ届くコラボのオファーはさらに増えることになる。

「コラボレーションの声掛けはありがたいのですが、あくまでも年に二度ある展示会で発表するコレクションが自分にとってはメインなので、慎重に進めています」。

 自分たちの本懐を見失わず、着実に地盤を固めていった柏崎。昨年には直営店の〈スキマ〉を東京・恵比寿にオープンし、先ごろからは自社製品のリペアサービスも始めた。

「〈Hender Scheme〉では、"考えて"、"作って"、"売って"までやれたんで、"直す"もやりたくて。靴って、木型を持ってるところが直すのが一番きれいにできるんですよ。だから僕らがやるべきだし、作って終わりじゃない。責任を持たないといけないから」。

 オマージュラインをはじめ、レザーを使った小物類にも定番と呼べるモデルが少しずつ増えている。

「本音を言えば、どのアイテムも半年だけで終わる短命なデザインで作ってるつもりはないので、定番にできるのが一番の理想ではあるんです。とはいえ、新しいものを作りたい欲求もあるし、全部を定番で続けていくことは現実的じゃないので、定番化できるものは残していくっていう感覚ですね」。

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色とりどりのカンバッジには、〈Hender Scheme〉では珍しいエキゾチックレザーも使用。革を無駄にしないという柏崎の想いから生まれたアイテム。
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ヌメ革でボトルをくるんだリードディフューザーはレザーの香りをイメージして調香されたもの。

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オイルベロアを使った、柔らかな質感のトートバッグ。
〈RIGHT〉
ウォレットやカードケースはいずれもユニセックスで使えるコンパクトな設計。



この春夏は"Y"という言葉を冠したコレクション。そこにも、柏崎のメッセージと洒落っ気が込められていた。

「この言葉については一度も説明してないし、誰も聞いてこないんですけど(笑)、僕は基本的にすべての物事を懐疑的に捉えていて、まずは疑うところからスタートして、ものを作るっていうやり方をしてるんです。だから、"ワイ"(=WHY)。例えばグッドイヤーが当たり前とされていたりとか、ここはこのミシンで縫うよね、とかっていうのが慣例、通例になってるけど、必ずしもそのやり方がハマってるわけじゃないな、とかっていうことを見直しながら作りました。毎シーズンやっていることではあるんですけど、査読するというか、それが本当に当たり前なのかどうかは一度考える必要があると思うんです。半信半疑で。すべてを鵜呑みにしてしまうとすごく偏ってしまったりするし、それは危険だなって思っています。咀嚼して、考えるっていうのはデザインやテクニカルな部分にも言えること。例えばここにハギを入れたらパンクする(壊れる)よ、とかっていう意見は半分は正解なんですよ。経験的に、そうであるべきことっていうのはもちろんあるんですけど、素材や縫い方、補強芯などを工夫すればクリアできることも中にはあって。そんな意味を込めたのが"Y"です。テーマを決めてから制作するのではなく、いつも物作りで考えていることから、一つの言葉を選び取って毎シーズンのタイトルにしています」。

本底に刻んだ溝に引っ掛けて使うカバーが特徴のレザーシューズ、"samidare nylon"。今季はカバー部分に発色の良いナイロンを採用している。



 そんな風に自分の価値観を大切にし、ひとつひとつのプロダクトと向き合って〈Hender Scheme〉のコレクションは作られている。一方で、常に新しい挑戦や、実験的な試みにも積極的だ。そのため、製品化されなかったアイデアも少なからずあるという。

「過去にヌメ革を使った雑貨では、ランプシェードとか傘とか、いろいろトライしています。オマージュラインでボツになったものの中には上履きとかもありましたね。それはルックス的に全然おもしろくなかったらからやめました」と言って柏崎は笑う。その表情からは、今も自由なアイデアで物作りを楽しむ彼の姿勢が垣間見られる。ブランド設立から7年、浅草の工房には信頼の置けるスタッフたちが増え、柏崎がクリエイションにより専念しやすい環境も整ってきた。

「今のこの体制ができてるのはすごくありがたいです。会社には役割を分担できる人たちがいて、生産してくれてる職人さんたちとも対等な関係でいられるっていうのが。最初はおんぶに抱っこで、そういう人たちの利にならないような仕事が多かったけど、今はそうじゃないから。そこはやっていてよかったなと一番思うところです。ブランドとしては少しずつ知ってもらえるようになったけど、あまり周りの評価も気にしないでやれているし。僕らのいる浅草には、ノイズがほとんど届かないから(笑)」。

柏崎が〈Hender Scheme〉を立ち上げる以前に、友人に頼まれて制作したという子供用のブローグシューズ。ブランドのルーツが垣間見られる。




Hender Scheme

身体的、生物学的に性差を示すセックスに対して、ジェンダーとは、社会的、文化的な
性差を意味する。HenderScheme(エンダースキーマ)ではセックスによる性差を
尊重しながらも、身なりにおいてジェンダーを介することなく、人間の経験や環境に
よって構造化されたジェンダースキーマを超越した概念を提唱する。

柏崎 亮

1985年 東京都生まれ。
2005年に、大学在学中より靴のメーカーに入って靴作りをスタートし、
2008年より靴修理の仕事を始める。
2010年、2010awより Hender Schemeを立ち上げ、
年2回の展示会での発表をベースに、コレクションを発表。
シーズンに合わせたメインコレクションに加え、
オマージュコレクションである mip シリーズは、毎シーズン1型づつ発表。




PHOTOGRAPHER : KENJI SATO
TEXT : RUI KONNO