DIGAWEL
Kohei Nishimura INTERVIEW
CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_00_top.jpg

COVERCHORD FEATURE

DIGAWEL
Kohei Nishimura INTERVIEW

ENGLISH

"好きな音楽"や"心地よい場所"の答えが人の数だけあるように、魅力的なファッションというのは人それぞれだ。自分のアイデンティティを胸元のロゴに込めてアピールするのも悪くないし、奇抜なアプローチに票を投じるのだって自由だ。しかし、街を見渡せばそうした服が溢れている中で、〈DIGAWEL〉は静かだが、確かに異彩を放っている。むやみに主張せず、それでいて存在感が漂う服づくり。そのコレクションと同様に普段は多くを語らないデザイナーの言葉に見る、気鋭ブランドのビハインド・ザ・シーン。
ファッションは6か月に一度、気分を変えてもいいゲームだと思っています

〈DIGAWEL〉が始まったのは2006年のこと。一番始めはブロード生地でできた3種類の白シャツと、数点の革小物だけの展開だった。その後シーズンごとに展開するモデル数は増えていったが、2011年の秋冬でスウェットをリリースするまではプリントものを一切作らず、現在でもコレクションの大半が無地か織り柄のアイテムで構成されている。そんな来歴を聞くと、ついつい無垢でオーガニックな世界観を想像しがちだが、実際は少し違う。
「言い方は悪いんですが、同じテイストに固執して、そればかりを続ける人が少しウソくさく見えてしまうんです」
〈DIGAWEL〉のデザイナー、西村浩平さんは少しバツが悪そうにそう語る。その真意とは? CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_01.jpg 「あくまで一般的な意味でのライフスタイルショップとかって、すごくオーガニックじゃないですか? だけど、僕らはジャンクフードだって食べる。現代において生きるっていうことは、毒っていう要素を少なからず含んでると思うんです」。
西村さんはナチュラルなスタイルや物が嫌いなわけではないという。ある側面だけを過剰に持てはやすことに、疑問を感じているのだ。そして、ことファッションにおいて、その違和感は度々彼の頭をよぎっている。
「例えばモードな洋服だけで着飾ろうとすると、ちょっと不自然に見えてしまったりすると思うんです。それはストリートにしてもそう。生まれてから死ぬまで、嗜好がひとつしかないっていうのが僕は嫌いなんです。もちろん、シンプルにずっと同じ物事に情熱を持っていて、それを突き詰めている人は素晴らしいと思いますけどね」。 CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_02.jpg 西村さんがそんな価値観を抱くに至ったのには、少年時代のファッションの原体験が少なからず影響しているようだ。〈DIGAWEL〉のイメージを思えば少し意外だが、彼が洋服に興味を持つきっかけになったのが〈STUSSY〉の1着のパーカだったという。
「確か中学生の頃だったかな。お姉ちゃんがどこかに行ったお土産に買ってきてくれたんですよ。〈STUSSY〉らしい、プリントが入ったシンプルなパーカだったんですけど、普段自分が着ている服とは明らかに違う、何かをそこに感じたんです」。
察しの通り、そこから西村少年はファッションの面白さに触れていくわけだが、その入り口とは対照的に、ストリートに熱心に傾倒したわけではなかなったようだ。
「それは当時の環境が大きいのかもしれません。僕の地元は九州の大分なんですが、例えば〈STUSSY〉と〈MAISON MARGIELA〉のショップが隣に並んでいるような街なんです。そういうところで育ったから、自然とそういうテイストの違うものを受け入れられるようになったんだと思います。環境や街が育ててくれる部分って、きっとあるじゃないですか」。
それからというもの、ストリートにもモードにも、最新の服にも古着にも分け隔てなく触れてきた。現在はただ服を着る側から、自ら作る側になった彼に、それらのベストバランスを尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「本当に申し訳ないんですが、それはそのときの気分によりますね。ファッションって6か月に一度、気分を変えてもいいゲームだと思っているので、気楽にやっています。僕が大切にしているのは、それよりも時間的な部分と空間的な部分。〈DIGAWEL〉は元々ブランドではなく、店を始めようと思って生まれたもので、今も基本的には店が主だという考え方をしています。あとは広い意味での生活。音楽を聴いて、映画を観て、本を読んで、世の中で起こっていることがある。そういうものが自分の中に溜まっていって、その時々のバランスが決まるんです」。 CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_03.jpg  そう話す彼が発表した春夏のコレクションは"YOURFORM"と題し、ユニフォームや制服から着想を得て作り上げたもの。今季唯一のメッセージプリントである"WORKING CONDITION"の文字がその象徴で、リフレクターを配した蛍光色のスウェットやカーペンターポケットをあしらったパンツなど、ワーク色の強いプロダクトが多いのはそのためだ。とは言え、ロゴやマークに頼らない、削ぎ落とされたデザインは今季も健在。"キャッチーでわかりやすいものを作ろうとは思わないのか?"という質問をぶつけると、彼は声を出して笑いながらこう答える。
「自分では作ってるつもりですよ、失礼な(笑)。 でも、例えばプリントのスウェットはわかりやすいんだろうけど、僕にとってはシンプルなシャツと何も変わらないんです。今の気分を表すのに必要だと思うから作っているという意味では」。

つまらない何かにとらわれてしまうんだとしたら、"らしさ"なんて要らない

 プリントや柄を最小限に抑えている分、〈DIGAWEL〉の色を強く感じさせるのがその素材使い。取材当日の西村さんが袖を通していたプルオーバートップスは、まさにその最たる例だ。
「これは、メインの素材がスリーレイヤーのナイロンなんです。袖やリブは綿だし、防水透湿の意味はあまりないんですけど、自分の思い描いてたデザインにはこのナイロンが一番近かったんです。例えば、この服はどこに何本シワを入れたいから、それに合った生地を選ぼうとか、そんな風に考えています」。
 まず作りたい服を思い描いたなら、それを具現化してくれる素材を探すのが西村さんの服づくりの手順だ。しかし、中には理想の素材に出会えず、見送ったデザインも少なくないという。
「その都度、絵型を取っておいて、良い生地が見つかったときに作れば良いかなと思っているんですけど、実際は不思議とそれが製品化することはほぼないんです。それにも、その時々の気分が関わっているんでしょうね」。
 リラックスした西村さんの言葉の端々には、洋服やファッションへの熱意が感じとられる。しかし、そんな彼の個性とは対照的に、彼の服づくりはどこまでいっても中庸で、客観的だ。
「言ってしまえば、"自分らしさ"とかっていうのが大嫌いなんですよね。そういう表現って、何をやっても"自分"にしかならないじゃないですか。枠やアウトラインはあっていいと思うけど、それでつまらない何かにとらわれてしまうんだとしたら"らしさ"なんて要らないと思っています」。 CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_04.jpg  その言葉が嘘ではないことは、少しでも彼の人となりを知る人だったらすぐにわかることだろう。西村さんは中学校のときにザ・ビートルズがカヴァーした、リトル・リチャード、ロバート・ブラックウェル、エノトリス・ジョンスンの共作曲『ロング・トール・サリー』を聴いて以来音楽に夢中になり、現在ではロックを始め、生音や打ち込み、現代音楽に至るまで、様々なジャンルに造詣が深いミュージックフリークとして知られているが、〈DIGAWEL〉の服はそうした側面をあまり映さない。
「すごく嫌なところに気づきますね(笑)。それは意図的なものです。個人的には音楽を聴くのが好きだし、その時代背景や当時の熱狂ぶりや状況を知るのも好き。だけど、それを直接的にアウトプットはしないようにしています。それが本当に今の時代にハマっているかどうかを考えた上で、どうしても抑えが効かないときにだけ、たまにやっちゃうんですけどね」。
そう話す西村さんの笑顔はどこか気恥ずかしそうだ。きっとそれは、これまでメディアで多くを語ってこなかった彼が覗かせた心根の片鱗だったのだろう。
「多分今までは、自信がなかったんだと思います。最近になってですよ、〈DIGAWEL〉がどこでどんな風に見られても構わないのかな、と考えるようになったのは。まだまだですけど、"これは大丈夫だな"と確信できる洋服が昔よりもちょっと作れるようになったなと感じたときに、そう思えた。デザインの完成だなんて大それたことは言えないけど、少しだけ、そこに近づけたのかなと思っています」。 CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_05.jpg CC_FEATURE_DIGAWEL_INTERVIEW_06.jpg
Photograph_Yuto Kudo
Text_Rui Konno