INTERVIEW
millican
Bags for The Future
CC_FEATURE_millican_00_top.jpg

COVERCHORD FEATURE

INTERVIEW
millican
Bags for The Future

ENGLISH

"Use less, be more(より少ないモノで、より良い体験を)"。
これがUK発バッグブランド〈Millican(ミリカン)〉のブランド哲学だ。旅行時の荷物を必要最低限にすることで物質的・精神的な負担を減らし、旅の一番大事な要素である"体験"自体に意識を向ける。この哲学は同ブランドのデザインや製造過程にまで行き渡り、構造や美学的にミニマリストなリュックサック、トラベルバッグ、オーバーナイトバッグなどがつくられている。
オーガニックやリサイクルされた資材を使った革新的なテキスタイルを用いる〈Millican〉にとってのキーワードは"サステナビリティ(持続可能性)"。設立から10年未満の若いブランドだが、強い信念と目的をもって高性能のアウトドアブランドと同等の耐久性・機能性を兼ねそろえたクリーンで単色のバッグを生み出している。
イングランドの湖水地方にある農場に拠点を置く同ブランドのクリエイティブディレクターを務めるのは、コンテンポラリー・アウトドアブランドのバイブル的存在である書籍『The Outsiders(ザ・アウトサイダーズ)』や、ベストセラーとなったハードカバーのアウトドア写真集『The Great Wide Open(ザ・グレイト・ワイドオープン)』の共同編集者でもあるJeffrey Bowman(ジェフリー・バウマン、以下JB)。
今回、そんな彼と〈Millican〉の創設者であるJorrit Jorritsma(ヨリト・ヨリツマ、以下JJ)に話を聞くことができた。
CC_FEATURE_millican_01.jpg - 〈Millican〉を立ち上げた経緯を教えてください。

JJ)〈Millican〉は今年の夏に10年目に入ります。拠点はイングランド北西部の湖水地方にある農場で、この地域は非公式ですがUKにおける「冒険の都」と呼ばれています。私たちが暮らすケズィックは小さな町にもかかわらず、アウトドアショップの数が国内一で、24もの異なる店舗が存在しています。

以前セーリング用の衣類を扱う仕事をしていたこともあって、昔から専門的な衣服や道具に興味がありました。でもディテールの面ではどれも似たり寄ったりなんです。特にアウトドア系リュックサックの多くは同じような色やデザイン要素が多いですよね。あと、お店に行って「サステナビリティの考えにもとづいたバッグを売っていますか?」と聞いても、みんな「No」という返事ばかり。長年いろいろな人に愛用され続けているデザインのバッグが昔から大好きだったので、伝統的なアイテムの良い点によりサステナブルな(持続可能な)素材を用いて、さらに最新の機能性も加えてアップデートしようと思ったのが〈Millican〉の始まりです。

最初に発表した「Originals Collection(オリジナルズ・コレクション)」では、100%リサイクルコットンを用いて、内側には100%リサイクルポリエステルを使いました。ただ、少し重すぎたのと、機能面でも最新と呼べるものではなかったので、インスピレーションの元となった伝統的なバッグと比べても大差はなかったのかもしれません。この反省点を活かして取り組んだのが、現在グローバルで販売している「Maverick Collection(マーベリック・コレクション)」です。最初のコレクションと同じ思想にもとづいて伝統的な要素を多く取り入れていますが、現代風にかなりアップデートされています。

CC_FEATURE_millican_02.jpg
CC_FEATURE_millican_03.jpg

- 〈Millican〉のミューズでブランド名の由来にもなったMillican Dalton(ミリカン・ダルトン)は、どのような人物だったのでしょうか?

JJ) いまから100年ほど前、私たちが拠点を置くボローデール渓谷に住んでいた冒険家です。彼はロンドンからここに移住して、最初はテント暮らしだったのですが、やがて洞窟に移り住んで50年間も自然の中で生活をし続けました。自分でテント・寝袋・リュックサックをつくり、とてもリサイクルに熱心な方で、まさにサステナビリティの元祖ですね。もちろん当時はそのような言葉はありませんでしたが。自分たちの拠点やブランドの目的を考慮した結果、これ以上ブランドストーリーとして最適なものはないと思い、彼の名前を借りることにしたのです。

- 〈Millican〉の製品はどのような点が特別ですか?特長について教えてください。

JJ) 「Maverick Collection」は、自然とサステナビリティを融合させるという、私たちのブランド思想を体現するファブリックを見つけることで誕生しました。Bionic(バイオニック)というアメリカの会社とファブリックを共同開発したのですが、この会社はリサイクルのポリエステルとコットンから糸をつくる特許を持っています。一緒に取り組んだ結果、65%リサイクルポリエステル、35%リサイクルコットンという配合にたどり着きました。糸の表面は見た目も触り心地もコットンですが、内側にリサイクルポリエステルが隠れています。とても密に織り上げているので摩耗に強く、当然耐候性も高くなります。さらにワックスを染みこませ、DWR(耐久性撥水)加工をほどこすので、高耐久性かつ高耐候性のファブリックになるのです。100%防水ではありませんが、私たちが追い求める自然なマット感の仕上げになっています。また、最小限のパネル構成と縫製を極力少なくすることで、デザイン面でもファブリック自体の耐久性・耐候性の向上に貢献できています。製品自体のクリーンかつコンテンポラリーな外観にも良い影響を与えていると思います。縫製を可能な限り少なくすることで、核となる機能性もうまく目立たないようにできました。

CC_FEATURE_millican_04.jpg

- 特徴的なカラーパレットはどのように生み出されているのですか?

JJ) 農場にある仕事場の窓の外に見えるさまざまな色からインスピレーションをもらっています。自分たちの周りにある自然な色を大切にしているんです。

- 〈Millican〉にとってサステナビリティは欠かせない要素ですが、どのようにデザインや製造過程にこの要素を取り入れていますか?ファブリックや部品選びの基準についても教えてください。

JJ) まず認定過程が不可欠です。私たちが使う機械類のいくつかは、環境、健康および生産面における安全性の証となるブルーサイン認証を受けています。また、私たちのオーガニックコットンはOCS(オーガニック・コンテント・スタンダード)とGOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル基準)の認証を受けています。ただ、製品を生産して輸送する限り、100%サステナブルというものは存在しません。サステナビリティの度合いは変動しますし、つねに学び続けなければなりません。いつも自社内やサプライヤー側と確認をしながら、さらなる改善点を見いだそうとしています。サステナブルな選択肢がない場合や、あったとしてもコストが10倍になってしまいビジネス的に採用できない場合もあります。透明性を確保し、たえずサプライヤー側と協力し合いながら改善を続けることが重要ですね。

- サステナブルな取り組み方は、今後どのようになっていくと思いますか?既存の問題について述べられていましたが、徐々に状況は良くなっていきますでしょうか?

JJ) サステナビリティにおける最大の課題は、自分たちやサプライヤー側の知識・認識の向上です。信用や認定、関係構築が大きな鍵を握ります。時にはコストの問題も発生しますが、サステナブルな製品に対する需要は急速に高まっています。消費者の要望がブランド側を動かし、サプライチェーンを変更せざるを得なくなるでしょう。消費者の期待に添うことができなければ、現状を維持する理由もなくなりますし。サステナビリティに対する要望がどんどん強まっていると感じています。



- 旅は〈Millican〉にとって欠かせない要素ですが、デザインに対する直接的な影響はどれほどでしょうか?

JJ) 私たちはプライベートでよく旅に出かけますが、大切なのは旅という行為自体ではなく、そこから得られる体験や学びです。旅には大きな解放感があります。どのような旅であれ、本当に必要なもの以外はすべてを置いていきますから。たいていの場合、荷物はバッグに入れるので、バッグはある意味自由や自立のシンボルとも言えますし、欠かせないアイテムです。Tシャツなどは旅の途中で増えたり減ったりしますが、バッグはずっと旅のお供です。友情や旅の途中での出会いを思い出させてくれる存在ですね。傷がついても思い出になったりもしますし、やがて"真の友"になります。私たちのバッグに親友の名前をつけるのもそのためです。

CC_FEATURE_millican_05.jpg

JJ) 私たちは日々の業務に埋もれがちで、生きることの目的を忘れてしまうことさえあります。旅に出ると、生きているという実感を再び味わうことができます。旅は間違いなく〈Millican〉にとって欠かせない要素ですね。クリーンでシンプルな製品をつくるので、機能性に関してはとても慎重に選択を行う必要があります。あれもこれも取り入れることはできないので、旅をサポートしてくれる機能について熟慮しなければなりません。ポケットやディテールなど、旅先での使われ方を考えて決めるようにしています。また、私たちの製品のほとんどがサイクリング・フレンドリーです。特化しているわけではありませんが、スロートラベルのブランドとして大切にしていきたい要素です。私のルーツであるオランダは自転車大国ですし、ここのスタッフもだいたい自転車に乗っています。マウンテンバイキングやツーリングなどもしていますね。通勤で自転車に乗るだけだとしても、〈Millican〉と自転車の調和性は大事にしていきたいです。

JB) "Use less, be more" というのが〈Millican〉のブランド哲学です。どのような道のりでも必要最小限の荷物で出かけられるようにするのが私たちの製品です。朝の通勤でも仕事終わりのサイクリングでも、同じバッグを使えます。状況に合わせて対応できるのが〈Millican〉のバッグなんです。

- 拠点としての候補は湖水地方だけだったのでしょうか?製品テストを容易に行える場所にしたいという意図があったのでしょうか?

JJ) 感覚的なものが大きいですね。私たちのようなブランドはどのような屋外環境でも大丈夫ですが、〈Millican〉の個性は湖水地方から多大な影響を受けています。ブランドの背景にあるストーリーやインスピレーションとしてMillican Daltonを選びましたしね。この地域のコミュニティはとても活発で、私たちのオフィスは農場にあるのですが、建物の1階にはパラグライダー育成のための学校があります。オフィスの目の前でパラグライダーたちがよく並んでいるのを目にします。湖や小道もたくさんあるので、さまざまなアクティビティが行われています。〈Millican〉にとって最適な場所なんです。インスピレーションにもあふれていますし。製品テストを行う環境も整っていて、デザインの過程でよくサンプルを持ち出してテストをして、修正を行っています。

- 『The Outsiders』という本を出版されていますが、どのようなことがキッカケになったのでしょうか?

JB) 長い間仕事に打ち込んでいたので、数年休んでノルウェーで暮らすことにしたんです。野外のコミュニティで生活をしていると、これまで自分が持っていた"アウトドア"という概念とは異なる見方があることに気がつきました。新しいクリエイティブ・シーンが盛り上がりを見せていて、新旧のすごくクリエイティブなブランドを紹介したいと思うようになったんです。それがこの本のキッカケです。湖水地方に来てJorrittと出会い、まだ発表前の「Maverick Collection」を目にしたときに、〈Millican〉の中に"アウトサイダー"的なものを感じました。そしてクリエイティブディレクターとしてチームに加わることになったんです。

JJ) 『The Outsiders』の序文で、Jeffが「イングランド北部に戻ってブランドを始める予定」と書いていたのを読んで、話をしてみたいと思いました。連絡を取り合ってみると、幸運にも彼は私たちのようなブランドを探していて、私たちも彼のような存在を探しているということがよくわかりました。そうしてチーム内でクリエイティブ面の取り組みができるようになったのです。

CC_FEATURE_millican_16.jpg

- これまで日本とのつながりはどのようなものがありますか?

JB) 柴犬を飼っているので強いつながりを感じますし、日本が大好きです。まだ行ったことがないので、いまのところ愛犬がつながりですね。

JJ) 日本に行き始めてから15~20年くらい経ちました。日本のクリエイティビティ、東京のクレイジーなところが大好きです。今日まで受け継がれる職人文化にも圧倒されます。すばらしい歴史と最先端が結びついてイノベーションやテクノロジーが生まれているのもすごいと思います。学ぶべきところが多い最高の国ですね。もっといろいろと体験する時間があったらといつも思います。

- 〈Millican〉の今後について教えてください。

JJ) 少しずつチームが大きくなっています。新しいプロダクトデザイナーを採用したばかりで、自転車に特化した製品も開発中です。来年には発表できるでしょう。

JB) 社会的な変化を生み出しているコミュニティの人たちに恩返しをして支援する取り組みも始める予定です。製品開発と同時進行させて、ブランドとしての立ち位置からポジティブな影響を創出できるよう努力するつもりです。

CC_FEATURE_millican_07.jpg

Photograph_Millican
Text_Samuel Fitzgerald (TNP)
Translation_Hidetaka Furuya