Gigi Masin & Jonny Nash
Postcards From Nowhere
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COVERCHORD CULTURE

Gigi Masin & Jonny Nash
Postcards From Nowhere

ここ数年、アンビエントといえばGigi MasinとJonny Nashと言うほど、二人の名前は知られるようになったが、彼らの最新のコラボレーション『Postcards From Nowhere』がリリースされる。
それぞれの活動もさることながら、MasinとNashがMarco Sterkと共に作り上げたプロジェクト〈Gaussian Curve〉からリリースされたアルバム『Clouds』、『The Distance』でもチルアウトの大物としての評判を固めていた二人。
今回、2017年のヴェネツィア・ビエンナーレでのライブレコーディングと美しいパッケージング、日本ではCOVERCHORDでしか手に入らないこのレコードについて、Jonny Nashに話を聞いた。


雰囲気はレコーディングセッションとライブコンサートの間のような感じだった


ーアルバムが作られたきっかけについて教えてください。

このアルバムのストーリーは、私とGigiが2017年のヴェネツィア・ビエンナーレで開かれたアートプロジェクト〈Studio Venezia〉に招待されたことから始まりました。それはフランスのアーティストXavier Veihanがやっている素晴らしいプロジェクトで、ビエンナーレの開催期間中、フレンチ・パビリオンを完全なレコーディング・スタジオに変えたのです。建築はドイツの芸術家のKurt Schwitters Merzbauの影響を受けていて、機材はレディオヘッドのプロデューサーのNigel Godrichのヴィンテージスタジオのものを使っていました。ビエンナーレ開催中、短期間のアート・レジデンシーに呼ばれたアーティストは制作のためにそこのスペースを自由に使うことができました。Gigiと私は3日間かけてそこのスタジオでこのアルバムの音楽を録音しました。

ーライナーノーツにはこのアルバムは「聴覚」だけで聞くものではなく、「視覚と触覚」でも体験するものだと書いていますが、最初からヴェネツィア・ビエンナーレで収録したものをただのライブアルバム以上の何かに仕上げようと考えていたのですか?

このプロジェクトは二つのチャプターに分けることができます。最初のチャプターは音楽の録音について、二つ目はそれ以降の作業について。最初のチャプターは先程も話したように、ヴェネツィア・ビエンナーレに呼ばれたことがきっかけでした。そこでのアート・レジデンシーが終わった後、録音した音楽のファイルは一年ぐらい私のハード・ディスクの中で眠っていました。そのセッションの音楽は絶対に何かに使いたいとは思っていたけど、日々のことで忙しくなってしまって、作業に取り掛かるためには何かきっかけが必要でした。2018年10月に友達のDavid Macfarlineから電話があって、まさにそのきっかけとなりました。Davidはロンドンを拠点とするデザインとブランディングのコンサルティング会社〈Commission〉を運営していて、また〈Music From Memory〉とも活動をしていて、Gigiの『Talk To The Sea』を含むいくつかのレコードカバーをデザインしています。

私が音楽を提供し、〈Commission〉がレコードリリースのアートディレクターをするという形で一緒にLPレコードを作らないかってDavidが誘ってくれました。パッケージングのデザインに関して〈Commission〉はトップクラスなので、普通なら扱えないような素材や技術を使ったスペシャルなものが作れると思いました。最初の感触で、これはヴェネツィアでやったセッションをもう一度出してきて、完成したアルバムという形にする最高のチャンスだと思いました。

ーこのコラボレーションで使った音楽のコンセプトは何でしたか?

「そのスペースと楽器を使って一緒に自然と何かを作る」ということ以外に特にコンセプトはありませんでした。スタジオには 美しいスタインウェイのグランド・ピアノといくつかのヴィンテージギターがあったので、自由に音楽を作って、その空間の音響効果を味わう素晴らしい機会でした。一般に公開されていたという点でスタジオ・ヴェネツィアはとてもユニークでした。ビエンナーレに来ていた人は自由にスタジオに出入りできて、音楽の制作過程を見ることができたし、雰囲気はレコーディングセッションとライブコンサートの間のような感じでした。私がこれまでプレイしたどのベニューにもないようなおもしろいエネルギーと緊張感がそこにあって、録音した音楽にもそれが何らかの形で影響を与えたと思います。『Postcards From Nowhere』を聞くとスタジオのアンビエンスが聞こえます。人々が歩いている音やかすかな人声がこのアルバムに特別な何かを齎している。このスタジオは本当にこの音楽になくてはならない要素だと思います。



自然で素直なものをキャッチしているセクションが明確にあった


ーレコーディングと制作のプロセスについて少し教えてください。

スタジオ・ヴェネツィアのエンジニアのThibaut Javoyと一緒に仕事をするのは最高でした。私たちは楽器をセットして演奏するだけ、彼が近いマイク位置からも遠いマイク位置からも収音してくれました。ほとんどはギターとピアノで即興演奏しました。『Postcards From Nowhere』の音楽もそういうのがほとんど。時々、他の楽器も使って。それが『Astro』っていう曲で、ビブラホン、クリスタル・バシェとローズ・ピアノを使っています。Thibautはセッションの全てを録音していて、滞在の終わりに全てのステムをくれました。そこで録音されていた音楽がすごい量で、それもあってセッションが終わって一年以上ファイルを触らなかったのかもしれません!結構な編集作業が必要だろうなって二人とも思っていました。

Davidから電話がきた時「ファイルを開いて作業する時がきた」と思って...実際に開いてみたらいい意味で驚かされました。数時間にも及ぶ録音の中に、とても自然で素直なものをキャッチしているセクションが明確にありました。Gigiに一部のセクションを送ったら彼もやる気で、結局セッションの中から二人で一番気に入った部分を選ぶことにしました。その編集作業の成果がアルバムにある6つの曲。全部、生のレコーディングから使う部分をカットして、少しだけ編集されています。

ーパッケージングも色々な面があって、複数の人の協働で作られたんですよね。そのプロセスや使われたマテリアルやテクニックについて教えてください。

〈Commission studio〉はパリを拠点とするプリント・アトリエ〈Imprimerie du Marais〉と協働でレコードのパッケージを作りました。〈Imprimerie du Marais〉はパリのマレ地区の中心に7つの作業所を構え、50年前からフランスの美術印刷の先陣を切っていて、カラーの定着、グライディング、エンボス加工の技術はトップクラス。

パッケージの制作にはこれらのテクニックが幅広く使われました。外側のスリーブは特別にデザインされた多層抄きの板紙「BillerudKorsnäs White 370gsm」で出来ていて、そしてこれを両面、多層エンボス加工しています。

二つのメインの画像はLuke Evansが撮った写真、向精神性作用のある植物をベースにしたシリーズからとったもので、原画を作るためにLukeはポラロイドをお湯に浸し、一番上の層を剥ぎ取っています。両方のポラロイドの一番上の層が、カバーの両面にある絵のもととなっていて、多層エンボス加工を使って、凸凹や外形を再現している。これに加えて普通のCMYKカラーモデルではなくて、特別な蛍光色を使って花の向精神色を引き出しています。蛍光プリントはスリーブの中にも自然なグラジエントで印刷されています。

内側のスリーブはグムンドコットンでできていて、両面に空浮き出し加工が施されています。綿100%で、材質がパリッとしているため、空浮き出しにとても向いていて、片面にはポラロイドの一つを空浮き出し加工したコピー、もう片面にはプロジェクトの短い紹介文が載っています。

片面に文字がエンボス加工されたオーダーメードの純黒色の板紙でできた封筒に入ってレコードは発送されます。封筒は専門的な製紙工場のJames Cropperと有名な製紙家のG.F. Smithのジョイントベンチャーによるもの。実はリサイクルされたコーヒーカップを黒い板紙に貼り合わせて作っていて、一つを作るために5つのコーヒーカップがアップサイクルされています。




Gigi Masin
1980年代イタリアのアンダーグラウンドエレクトロニックシーンで活動していたGigi Masinは、1986年に1stアルバムの『Wind』をセルフリリースし、複数の小さなコンサート場で販売した。数年間、このレコードはほとんど知られることはなかったが、BjorkやNujabesにサンプリングされたことをきっかけにカルト·ステータスへと押し上げられ、Masinの音楽に再び注目が集まった。アムステルダムのレコード·レーベル〈Music From Memory〉が2014年に『Talk to the Sea』というタイトルでGigi Masinの作品のコンピレーションをリリース。その翌年Gigi Masinは自身のレーベル〈The Bear on the Moon〉から『Wind』のリマスター版をリリースし、Jonny NashとMarco Sterkと一緒に新しいグループ〈Gaussin Curve〉を結成。


Jonny Nash
2000年代、日本滞在中に活動を開始し、瀧見憲司のレーベル〈Crue-L Records〉から最初のレコードをリリース。ロンドンに拠点を移してからは、複数のソロ·プロジェクトやコラボレーションを製作した後、自主レーベル〈Melody As Truth〉を2014年に立ち上げた。最近では映像やアート·プロジェクトにも活動範囲を広げ、2017年にはイタリアのアンビエントのパイオニアGigi Masinと一緒にヴェネツィア·ビエンナーレにレジデント·アーティストとして招待された。