COVERCHORD FEATURE
山中漆器・我戸幹男商店
JAPAN TRADITIONAL
CRAFTS WEEK 2023
日本各地の伝統的工芸品が東京に集う「JTCW 2023」が開催される。
COVERCHORDでは、石川県加賀市の木地挽物、山中漆器・我戸幹男商店をご紹介。
11月10日 (金)~11月23日 (木) 開催
東京都内29のセレクトショップにて、日本各地の伝統的工芸を紹介する「JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK (以下、JTCW) 2023 」が開催される。
JTCW初参加となるCOVERCHORDでは、石川県加賀市の山中温泉地区で450年に渡り伝承されてきた工芸品 「山中漆器」の中から、〈我戸幹男商店〉をご紹介する。
四代に渡り受け継がれてきた技法を重んじながらも、現代的な解釈を取り入れ、洗練された漆器を世に送り出す〈我戸幹男商店〉のプロダクトは、「漆器」のイメージを覆す唯一無二の工芸品だ。
COVERCHORDは、実際に「山中漆器」の産地、山中温泉地区を訪ね〈我戸幹男商店〉への取材を敢行した。凛とした空気が張りつめるものづくりの現場に垣間見えたのは、伝統技法への畏敬と、それを守り抜く矜持。そして時代への挑戦。
本記事では、プロダクトと共に〈我戸幹男商店〉のものづくりの本質に迫ってみたい。
伝統工芸品・山中漆器
我戸幹男商店
石川県加賀市の山中温泉地区の伝統工芸品「山中漆器」。
かの松尾芭蕉も愛したと言われる、自然豊かな渓谷の湯の町に漆器作りの文化が根付いたのは、およそ400年前の安土桃山時代。木地師(木工職人)の集団が集落移住したことに始まる。
当初は温泉客への土産物として販売されていた挽物(轆轤を用いて製作された木工品)のうつわは、漆塗りや蒔絵といった技術の導入、轆轤挽きの技法が進歩するなどして、独自の伝統文化「山中漆器」へと発展した。
数ある漆器産地の中でも、挽物木地全国一の生産量を誇る山中温泉地区は「木地の山中」とも称され、現代においても多くの木地師が活躍している。
美しい木目模様を生かした自然な風合いが特長の「山中漆器」は、木が育つ方向にうつわの形を取る「縦木取り」という工法によって作り出される。さらに、光が透けるほど薄く仕上げる「薄挽き」や、木面に繊細な模様を刻む「加飾挽き」など、熟練された職人たちによる巧みな轆轤技術は日本一だ。
今回COVERCHORDは、「山中漆器」の工房〈我戸幹男商店〉を訪問した。1908年、木の加工・成形を行う木地屋〈我戸木工所〉として創業。親族経営を経て、現屋号に改め四代目となった現在では、職人との強い信頼関係のもと、デザイナーとのコラボレーションや、漆器製品の企画・プロデュースから販売までを一貫して行っている。
JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK 2023
山中漆器・我戸幹男商店
at COVERCHORD Nakameguro
「創り手」「売り手」「使い手」の3者を繋ぐイベントとして開催される「JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK 2023」。
11月10日 (金)から11月23日 (木) まで、COVERCHORD Nakameguroでは「山中漆器・我戸幹男商店」を出展。
同日よりCOVERCHORD Onlineでも、〈我戸幹男商店〉の漆器が発売される。14日間限定のこの機会を、どうぞお見逃しなく。
会期: 2023年11月10日(金) - 11月23日(木)
11:00 - 19:00
会場: COVERCHORD Nakameguro
東京都目黒区青葉台1-23-14
COVERCHORD Nakameguro
Instagram_@coverchord_nakameguro
我戸幹男商店
Website_gatomikio.jp
Instagram_@gatomikio_shouten
JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK 2023
Website_jtcw.jp
Instagram_@jtcw_official
11月10日 (金)~11月23日 (木) 開催
我戸幹男商店
の工房を訪ねて
「山中漆器」の生産体制は、木地屋・下地屋・塗師屋・蒔絵屋など職人による垂直分業によって構成される。
松尾芭蕉の俳句理念を冠した「KARMI(かるみ)」など、様々なコレクションシリーズを企画・生産する〈我戸幹男商店〉は、山中にある約40の工房を束ね、協業している。シリーズのデザインや特性に応じて、各分野それぞれの最適なプロフェッショナルに製作を依頼するという。
実際の漆器作りの現場を取材するべく、〈我戸幹男商店〉四代目当主・我戸正幸(がと・まさゆき)氏案内の元、工房を訪ねた。
漆器作りの礎となる木地を製材。樹木を輪切りにスライスする「縦木取り」の工法現場。
寸法を決め、余分な部分を切り落とし、 轆轤で大まかな形状を作る。この状態にしてから、1ヶ月から半年、ゆっくりと乾燥させて、歪ませるだけ歪ませる。原木を仕入れて一つの器が完成するまでには、約1年ほど要する。
「縦木取り」を主とする「山中漆器」だが、大皿や盆など漆器の形状によっては「横木取り」の工法も採用される。スライスされた板状の木材が、みるみるとうつわの形状に粗挽きされる。
木地の表面に並行筋や渦巻き線などの模様を装飾する「加飾挽き」。全ての筋が同じ深さ、同じ幅で削られる、緻密で正確な轆轤技術だ。加飾挽きの筋の種類は40~50ほどあるという。
木地師の久津見洋一氏は、茶托や銘々皿などに千筋などの加飾挽きを入れてきた「加飾挽き」のプロフェッショナル。茶筒や喰籠など精度を要する合口物や、ステムの細いワインカップなども製造している。
久津見氏の足踏み式轆轤は、ペダルを踏むと一気に最大出力で回転する特別仕様。熟練した職人にしか扱えない難易度だ。
工房で一人、黙々と木挽きに向き合う姿勢には、職人としての気骨を感じさせられる。
挽物に使うカンナ。職人の手により一本一本、鋼を鍛造し作られる。木を挽く音しかない工房内には、心地よい静謐な空気が立ち込める。
木目を際立たせる透明感のある「拭漆」という技法。
漆の拭き残しや埃の付着などに細心の注意を払いながら、工程を繰り返す。
色のコントラストが美しい伝統的な拭漆仕上げ。マットな質感に仕上げる際には最後にウレタン塗装を施し、〈我戸幹男商店〉らしいモダンな漆器が生まれる。
山深い渓谷にある温泉地、山中。この地を歩いていると、豊かな自然の恩恵があってこその、伝統工芸なのだと気付かされる。
我戸幹男商店
木地屋としての矜持
工房を巡る中で、〈我戸幹男商店〉四代目当主の我戸正幸氏と職人の間にある強い信頼関係をまざまざと感じた。
就任後、デザイナーを起用したプロダクトが数々の賞を獲得するなど、〈我戸幹男商店〉のコンセプターとしてリブランディングを成功に導いた正幸氏。
が、ここに至るまでには多くの苦難と逆境を経験したという。東京の専門学校や就職先の漆器問屋でノウハウを学んだ後、家業を継ぐために山中へと戻った。しかし、当時はバブル崩壊後の不景気真っ只中。漆器業界全体のムードは「いかに安価な商品を提供できるか」の一色だった。
伝統工芸としての「山中漆器」の魅力や強みを誰よりも知っている正幸氏は、「山中漆器」の価値が世間に伝わらなことに悔しい思いをした。文化の担い手としての使命。木地屋としての矜持。この二つが正幸氏に火をつけた。
変わらないもの、また変えてはならない不易を継承する一方で、常に新しさを求める流行性こそが本質であること。松尾芭蕉の俳諧理念の一つ「不易流行」をテーマに掲げ、10年先も変わらない「山中漆器」の価値を根底から磨き上げ直した。
今や「山中漆器」における次世代をリードする存在ともなった正幸氏は、自社内に「我戸幹男研究所」なる工房を設立するなど、文化を継承する場所づくりにも意欲的だ。
伝統工芸を後世に繋ぐためには、職人への敬愛の念を忘れず、時代の価値観を正しく読み取り、持続可能な取り組みをする。日本各地で伝統工芸文化の衰退が囁かれる中、正幸氏の考え方は一つの規範を提示しているのかもしれない。
自社に設立された「我戸幹男研究所」。次世代の若き担い手が、この場所で日々技術を研鑽している。
街道沿いにある直営店「GATO MIKIO/1」。土産物として作られた山中漆器の歴史に立ち返り、原点回帰をする場所という意味を込めて「/1」と名付けられた。